ごまかしの果てに

大切なことをするときに、ごまかしはよくない。そんなの、当たり前だと誰もが知っている。でも、今の政府がしていることは、それに背いているとしか思えない。

国は、来年秋に現行の現行保険証を廃止してマイナンバーカードに一体化するという計画を進めている。岸田首相は記者会見を開き、期限の見直しを明言しない代わりに、マイナ保険証を持っていない人に資格確認書を発行し、有効期限を当初の最長1年から最長5年に延ばすと語った。

もはや自分が言い出したことを、たとえ矛盾していようが、効率が悪かろうが、つぎはぎだらけのやり方であろうと何が何でもやり遂げるのだと言っているとしか思えない。有権者は冷めた目で眺めていて、だから支持率は下がる一方だ。

どうしてこんなことになるのか。それは、マイナンバーカードをなぜ導入するのか、そのことをきちんと国民に説明してこなかったからだと思う。

マイナンバーカードの本来の目的は、税金の取りこぼしをなくすためだと私は思っている。そもそも戸籍も、税金の徴収をきっちり果たすために作られた側面がある。だが社会が拡大し、人口が拡大するにつれて、紙の戸籍だけでは情報を管理しきれなくなってきた。そこで、戸籍を電子化し、社会に散らばる口座情報とひもづけることで、隠し口座などによる税金の徴収こぼしをなくし、徴税に関する公平を取り戻す。それが最終的な目的ではないのだろうか。

だが、個人情報の問題があり、国民から理解を得るのは難しい。だから、マイナポイント等の「あめ」をばらまき、利点ばかりアピールして、安易に導入できる方策をさぐった。その結果が今の事態ではないのか。本来の目的を見失ったつけを、今払っているのだ。

消費税率を上げる時、時の民主党政権は「社会保障にあてるために必要」と主張し、全国で説明会を開いて回った。増税に対する批判は今なおあるが、当時のやり方には筋を通して説明し、理解を得たいという誠意があったように思う。結局、自民党政権によって消費増税社会保障費のためという名目は有名無実化した。マイナンバーカードでも同じように「国民にいいこと」ばかり強調し、自分たちの主張を通してしまおうという思いが透けて見えて仕方ない。

岸田首相は「これからも国民に真摯に説明する」と繰り返す。だが、一度も真摯に説明された記憶はない。ごまかしの説明ばかり聞かされても、思いは冷めるばかりだ。