さらば更新うどん 上

先日、おそらくコロナ以降おそらく初めて外食でうどんを食べた。

うどんが好きだ。

これまで食べてきた中で一番はと言われれば、迷いなく北九州の更新うどんを挙げる。

念のためだが、「こうしん」うどんではない。「さらしん」である。

九州のうどんは基本的に柔麺なのだが、ここは表面は柔らかいように見えてもっちりとしたコシがあり、食べがいがあった。そして、コシのあるうどん屋はえてしてダシが雑になりがちだが、ここのダシは必要以上にカツオや昆布やしょう油の味が突出していることがなく、絶妙にバランスが取れていた。

最初に更新うどんを知ったのは90年代前半、山口にいた頃だ。旧知の中古車販売店長が教えてくれた。「いつも行列ができている」というので、週末小倉に遊びに行く途中で寄ってみた。サンスカイホテルの向かいにあり、当時はカウンター席のみ5、6席の店だった。「ごぼう天うどん発祥の店」と言っていたと思う。

九州では「ごぼう天うどん」が関西の「けつねうろん」みたいなもので、多くの人が愛を込めて「ごぼ天うどん」と呼ぶ。文字通りごぼうの天ぷらが乗ったうどんで、九州のうどん屋ならどこでも置いている。ごぼう天うどんのごぼう天といえば、大抵ささがきの天ぷらかかき揚げだ。だが更新うどんのごぼう天はスティック状のごぼうを天ぷらにしたもので、かむとサクサクとかみ切れた。作り方を知らないが、料理の心得のある義父は「よくゆがいてあるな」と言っていたから、ゆがいてから天ぷらにしたのかもしれない。

当時の店は2階建てで、2階が作業部屋になっているのか、麺がなくなると2階から下ろしてきていた。だしは水道の蛇口から出ていたっけ。2階から引いていたのだろう。店の特徴はもちろんうどんのうまさなのだが、それだけではなかった。店主の人柄だ。いつも上機嫌で、うどんはいつも多め。普通盛りでも女性ならちょっと多いと感じるはずで、初見の客が大盛りを頼むと、洗面器ほどの大きさのどんぶりにいっぱいのうどんが盛られて出てくるので慌てることになる。店主はサービス精神が旺盛で、客がうどんを食べ進むと「ダシが足らんやろ」と頼みもしないのにお玉いっぱいのダシ汁を勝手に注ぎ出すのが決まりだった。

メニューは定番のごぼう天うどんの他に、かも南うどん、肉ごぼううどん、しょうがうどん等、どれも絶品だった……と、ここまで読み進んでいただいた方には大変申し訳ないが、実はこの更新うどん、今はなくなってしまった。……と、いうことを、久々に外食でうどんを食べたこの日に知ったのだった。一緒に店に入った同僚に今と同じように更新うどんの話をし、どんな店かと興味を持った同僚がスマホで調べたところ、店主がなくなったために店が閉店となっていたことを見つけたのだった。

 

ちょっと話が長くなったので、続きは次回。

更新うどんの看板メニュー、ごぼう天うどん